俺の町、あなたの名前

sakura02クロ: 「木村ってヤツがいてね、こいつが俺の町で好き勝手やってるんだ。」
じっちゃ: 「“俺の町”ってのはやめろ、クロ。悪い癖だ。ここは、誰の町でもねぇ。」

(参考:映画「鉄コン筋クリート」松本大洋原作、マイケル・アリアス監督)

時々、思う。
どうして、私たちは、あれこれ区別したがるのだろう? どうして、これは私のモノだと主張したがるんだろう? と。

そこから生まれるものは、何だろう? それを生み出すものは、何だろう?
分けることなどできないのに。分けられたことなどないのに。どうして、同じであることを受け入れることに、そんなに怯えるのだろう?
分けているのは、私たち。「私のモノ」がある方が、「私であること」をつかみやすい。それがなかったら、「私」は宙ぶらりん・・・。

誰のものでもない町。誰のものでもない国。誰のものでもない地球。誰のものでもない宇宙。誰のものでもない私。みんな同じ空の下、空の中。「私のモノ」など何もなかった。
あらゆるものの中に存在するものが、これまでも今もこれからも、姿を変えて存在しているだけなのだから。
何も持たなくても、「私」はここにいる。

ジューリエット: おお、ロミオ、ロミオ! どうしてあなたはロミオなの?
お父様とは無関係、自分の名は自分の名ではない、とおっしゃってください。
それがいやなら、お前だけを愛していると、誓ってください。
そしたら、私もキャピュレットの名を捨ててしまいましょう。
ロミオ: このまま聞いていようか、それともすぐに話しかけようか?
ジューリエット: 私の仇はただあなたの名前だけ、
モンテギュー以外の名前をもっておられてもあなたはあなた。
モンテギューというのは何なのか。 手でもなければ足でもない。
腕でも顔でも、いいえ人間の五体のどの部分でもない。
ロミオ、ほかの名前の人になってください!
名前っていったい何なのか? みんなが薔薇と呼んでいるあの花も、
ほかの名で呼ばれてもその甘い薫りには変わりはないはず。
同じようにロミオも、たとえロミオと呼ばれなくとも、
あのなつかしいお人柄に変わりはなかろう、もともとロミオという名前とは、
何の関係もないお人柄なのだから。 おお、ロミオ!
どうかそのお名前を捨ててくださいまし! そしてそのかわりに、
あなたにとってそう大切でもない名前のかわりに、私を、私のすべてを、おとりくださいまし。
ロミオ: おっしゃるとおりにいたしましょう!
私をただ、恋しい人だと呼んでください。 すぐにでも洗礼を受けて名前を変え、
ロミオという名前とは別な人間になりましょう。
ジューリエット: あなたはだれなのです、こうやって夜の暗闇にまぎれ込み、
私の内緒の独言を聞いたあなたは?
ロミオ:私がだれか、どういう名前で答えていいのか、
私にもわからないのです。 あなたは私の名前を仇だとおっしゃる。
だとすれば、それは私にとっても憎い憎い名前。
何かに書いてあれば、消してしまいたいほど憎い名前です。
ジューリエット: あなたのお口から響いてくる言葉を
私はまだそれほど耳にはしておりませんが、お声はちゃんと覚えております。
あなたはロミオ、モンテギュー家のお方。
ロミオ: いや、美しいあなたに答えたい、どちらもおいやなら、どちらでもない、と。

(参考:岩波文庫「ロミオとジューリエット」シェイクスピア作、平井正穂訳)

名前、家系、国、法律、宗教、旗、・・・。どうして、私たちはあれこれとカタチを作りかがるのだろう? もし、それらがなかったら、私たちは仲良くできるだろうか。
今ある国境は、はじめから今の状態ではなかったし、今も変えようとしている人たちがいる。同じ地球の中で、「これは私のモノだ!」と拳を上げている。
違って見えるものではなく、私たちに共通しているものに目を向けてみたら、あらゆる区別をなくして、世界をただそのまままるっと見てみたら、そこに何を見るだろう?
そのとき、「私のモノ」は、何になるだろう・・・。