知ることについて」タグアーカイブ

テーブルの上

真っ白い廊下を 赤いワンピースを着た裸足の少女が 走って行く
片側に 幾つもの扉が並んでいる

少女は 扉を開けた
部屋の中には 大きなテーブルがあった
望遠鏡 顕微鏡 計量器 定規 薬品 試験管やいろいろな実験用具
そして 化学式と数式が書かれたメモが ぐちゃぐちゃに丸められていた
静まりかえった部屋に 主の姿はなかった
少女は 部屋を出て 真っ白な廊下を走っていった

少女は 扉を開けた
部屋の中には 大きなテーブルがあった
地球儀 世界地図 化石 骨格標本 積み上げられたたくさんの分厚い本
そして 一枚の年表が びりびりに破かれていた
静まりかえった部屋に 主の姿はなかった
少女は 部屋を出て 真っ白な廊下を走っていった

少女は 扉を開けた
部屋の中には 小さなテーブルがあった
ランプ インク ペン
そして 一編の詩が書かれた小さな紙片が 置かれていた
静まりかえった部屋に 主の姿はなかった
少女は プレゼントを受け取るように その紙を手にすると
大事そうに ポケットにしまった
少女は 部屋を出て 真っ白な廊下を走っていった

少女は 扉を開けた
部屋の中には 一枚のキャンバスが イーゼルに立てかけられていた
静まりかえった部屋に 主の姿はなかった
少女は キャンバスに近づくと しばらく眺め
そして ぎゅっと抱きしめた
少女は 部屋を出て 真っ白な廊下を走っていった

少女は 扉を開けた
部屋の中には 大きなコンピュータがあった
モーターがうなりを上げ チカチカとせわしなく
いくつもの小さなライトが 点滅しはじめた
「Hello.」 モニターが明るくなり 文字と共に奥行きのない音声が発せられた
「Hello. Who are you?」 少女はコンピュータに話しかけた
「I don’t understand the question. Could you tell me more?」
「Where are you from? Where are you going?」
「I don’t understand the question. Could I have more information?」
少女は けらけらと声を立てて笑った
すると コンセントが抜け
真っ暗になったコンピュータは もう何も言わなくなった
少女は 部屋を出て 真っ白な廊下を走っていった

「わたしも もりにいくわ!」
少女は 廊下の先から溢れてくる光の中に 走っていった
少女の裸足の足が 土に触れ 一面の草原がおだやかに揺れていた
少女の目は その向こうに佇む 大きな大きな森を見た
燦々と降り注ぐ陽を浴びて 少女は 走って行った

陽光が照らすテーブルの上に 小さな白い羽が舞い降りた
はたと 物語を書く手を止め
大人になった少女は 部屋を出た

 

 

知れば知るほどに

知れば知るほど 人は 謙虚になっていく
偉ぶっている人は 自分の無知さえ 知らないがため
自分の非を認めない人は 自分の無知を 認めたくないがため
知ることを恐れる人は 自分が信じてきたものを 否定したくないがため
知ることを求める人は みんなが信じているものは違うのではないかと 感じるがため

知れば知るほど 絶望していき
知れば知るほど 可能性が見え
知れば知るほど 穏やかになっていく

内面が静かな人は ちゃんと向き合えた人
自分の無理を知る人は すでに 多くの知を手に入れている

知れば知るほど 無知を知る
知らないが故に この世界で遊ぶことができる

 

 

私たちはまだ知らない

私たちは まだ 何も知らない
世界は まだ 何も決まっていない

最初の人は 誰だったのか
その人は 何を想ったのか

暗闇に灯る 黄金の砂粒
鯨がうたう 森の中
きみの瞳が 世界を紡ぐ

最初の人は 僕らだった
僕らが それを 望んだから

瞳に明かされる 空のうた
きみが 目を閉じ
世界が 目を覚ます

私たちは まだ 何も知らない
世界は まだ 何も決まっていない

否 わたしは 知っている
否 わたしは 知りたい

わたしと私たちときみと僕らの 透明な世界の物語

 

 

言葉違い思い違い

balance子供らしさと 幼稚なこと は違う
強いことと 乱暴なこと は違う
美しいことと 着飾ること は違う
ユーモアと おちゃらけること は違う
守ることと 束縛すること は違う
教えることと 支配すること は違う
寛大であることと 我慢すること は違う
自由であることと 何をやってもかまわないこと は違う
軽やかなことと 軽いこと は違う
ありのままと わがまま は違う
賢いことと たくさん暗記していること は違う
豊かなことと たくさん所有していること は違う
流れであることと 流されること は違う
一つであることと 一つになろうとすること は違う
生きることと 生き残るために生きることと ただ長生きしようとすること は違う
嘘をつかないことと 素直であることと 開き直ること は違う

他にも ありそうだけど
時々 そんなことを 考える

 

 

私には 見たい世界がある

“壁がある” ということを知っている人は
壁を壊し 外へ出ることができる
“壁がある” ということを知らない人は
壁を壊すことも 外へ出ることもない
自分のいる世界がすべてだと 疑うことがないのだから

どちらが 幸せだろうか
壁の外が 安全だとは 言い切れないのだし
そもそも 安全とは 何なのだろう
誰にとっての 安全なのか

それでも 私は 壁を壊して その向こうへ行くだろう
だって 私は 生きているのだから
私は これからも 創り上げていくだろう
だって 私は 世界と共にありたいから