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ひとり

「私はひとりだ」
そう言った途端 彼は世界から目を背けた
「必要とされないなら」 と彼は立ち去り
「必要でないのなら」 と人々も彼から立ち去り
風も木々も鳥たちも 口を閉ざした

「私はひとりじゃない」
そう言った途端 彼は世界と向き合った
「必要なのだ」 と彼は立ち上がり
「必要ならば」 と人々も彼へ手を伸ばし
風も木々も鳥たちも 語りはじめた

「私はここにる」
そう言った途端 彼から幻想が消え去った
「必要なものはここにある」 と彼は世界と共に歩き出し
「あれもこれも必要なかったんだ」 と人々も自分の足で歩き出した
風も木々も鳥たちも うたいはじめた

ひとりを嫌がる人は 自分のことしか見ていない
ひとりを好む人は 自分を含めた世界を見をている
孤独は寂しいことじゃない
世界自身であることなんだ

あなたは ひとりじゃない
私たちが ここにいる
あなたは ひとり
私たちと同じ ひとつだ

 

 

物質の惑星

自分達の不便を解消しようと もっと幸福を得ようと
内側の力を外側に 道具を施設をシステムを作りだした
そして 外側の多大な発展と共に 内側の力が失われていった

でも ここは地球
内側の要求を 外側に生み出す場
だから それでいいじゃないか

でも ここは宇宙の中の地球
外側の体験を通して それを超える内側の力を呼び覚ますことができる場
だから それを目指してもいいじゃないか

さあ 両手を広げて 大いにこの世界を楽しもう
この地に生まれ この地を去るその時まで
この内側と外側の大いなる循環の輪の中で 真に豊かな創造を今こそここに

 

 

私の歩む地球

ドクン ドクン ドクン ドクン
輝く透明な虹色 私がこれから歩んでいく地球
ドクン ドクン ドクン ドクン
鮮やかで軽やかな風が吹く
誰もが創造者として立ち上がり
同時に存在するエネルギーを選択しながら歩いて行く
それぞれのペースが尊重され その美しい調べが世界を彩る
多様な世界は共に育むものとなり
行き交う力は豊かな森を広げ すべての人に必要な実が分けられる
抜けるような青い空
輝く水面 創造と破壊を伝える波の音
深海は現出する前の満ちたる大いなる静寂を秘め
クジラの飛沫が時を告げる
星々はここにあり
血を沸き立たせる太陽は 新たな体験の場を提供する
木々のざわめきはうたとなり
全ての生命の螺旋を描く輪の中心に湧き出す泉は雨を呼び 開かれた物語を紡ぐ
みずみずしい金緑の草原を この地に生まれた喜びに子供たちが走っていく
働くことは個々の真の目的を生きることとなり
勝敗は相手を負かすことではなく
称賛は生を全うした死の時に与えられる
連なる山々の教え 宇宙の鼓動と呼応するマントル
月の満ち欠けは静と動のリズムを伝え
暗闇に灯すあたたかな明かりは血を沈め 夜の扉をノックする
豊かな眠りは豊かな生活を創り出し 豊かな呼吸は世界と共鳴し
怒りは満ち足りた心に溶かされ 孤独はひとつの中に抱きしめられる
見えるものと見えないものへの比重が変わり
純粋な意図が人々を繋げる手段となる
存在はここにあり
肉体の目は内なる目によって開かれ 世界の中にありながら世界自身を体感する
ドクン ドクン ドクン ドクン
新しい地球はすでにここにあり
伸ばした手があなたに触れる
ドクン ドクン ドクン ドクン
私たちが歩みはじめた地球
今初々しく目の前に広がり
見上げた空から 輝く透明な虹色の雨が降る

 

 

テーブルの上

真っ白い廊下を 赤いワンピースを着た裸足の少女が 走って行く
片側に 幾つもの扉が並んでいる

少女は 扉を開けた
部屋の中には 大きなテーブルがあった
望遠鏡 顕微鏡 計量器 定規 薬品 試験管やいろいろな実験用具
そして 化学式と数式が書かれたメモが ぐちゃぐちゃに丸められていた
静まりかえった部屋に 主の姿はなかった
少女は 部屋を出て 真っ白な廊下を走っていった

少女は 扉を開けた
部屋の中には 大きなテーブルがあった
地球儀 世界地図 化石 骨格標本 積み上げられたたくさんの分厚い本
そして 一枚の年表が びりびりに破かれていた
静まりかえった部屋に 主の姿はなかった
少女は 部屋を出て 真っ白な廊下を走っていった

少女は 扉を開けた
部屋の中には 小さなテーブルがあった
ランプ インク ペン
そして 一編の詩が書かれた小さな紙片が 置かれていた
静まりかえった部屋に 主の姿はなかった
少女は プレゼントを受け取るように その紙を手にすると
大事そうに ポケットにしまった
少女は 部屋を出て 真っ白な廊下を走っていった

少女は 扉を開けた
部屋の中には 一枚のキャンバスが イーゼルに立てかけられていた
静まりかえった部屋に 主の姿はなかった
少女は キャンバスに近づくと しばらく眺め
そして ぎゅっと抱きしめた
少女は 部屋を出て 真っ白な廊下を走っていった

少女は 扉を開けた
部屋の中には 大きなコンピュータがあった
モーターがうなりを上げ チカチカとせわしなく
いくつもの小さなライトが 点滅しはじめた
「Hello.」 モニターが明るくなり 文字と共に奥行きのない音声が発せられた
「Hello. Who are you?」 少女はコンピュータに話しかけた
「I don’t understand the question. Could you tell me more?」
「Where are you from? Where are you going?」
「I don’t understand the question. Could I have more information?」
少女は けらけらと声を立てて笑った
すると コンセントが抜け
真っ暗になったコンピュータは もう何も言わなくなった
少女は 部屋を出て 真っ白な廊下を走っていった

「わたしも もりにいくわ!」
少女は 廊下の先から溢れてくる光の中に 走っていった
少女の裸足の足が 土に触れ 一面の草原がおだやかに揺れていた
少女の目は その向こうに佇む 大きな大きな森を見た
燦々と降り注ぐ陽を浴びて 少女は 走って行った

陽光が照らすテーブルの上に 小さな白い羽が舞い降りた
はたと 物語を書く手を止め
大人になった少女は 部屋を出た

 

 

世界との関係を再び取り戻すために

「早く歩きすぎた」とインディアオは話した。「だから、われわれの魂が追いつくまで、待たなければならなかった」
わたしたち、つまり工業社会の“文明”人は、この“未開な”インディオから多くを、とても多くを学ばなければならないと思う。外なる社会の日程表は守るが、内なる時間、心の時間に対する繊細な感覚を、わたしたちはとうの昔に抹殺してしまった。ここの現代人には選択の余地がない。逃れようがないのだ。わたしたちはひとつのシステムを作り上げてしまった。ようしゃない競争と殺人的な成績一辺倒の経済制度である。一緒になってやらない者は取り残される。昨日モダンだったものが今日は時代おくれと言われる。舌を垂らしながら、わたしたちは他の者を追いかけ、駆けているが、しかしそれは狂気と化した円舞なのだ。一人が駆ける速度を高めると、みんな速く走らなければならない。それを進歩とよんでいる。

(参考:岩波書店「エンデのメモ箱 <考えさせられる答え>」ミヒャエル・エンデ著、田村都志夫訳)

時々、思う。
私たちは、何をそんなに急いでいるのだろう? 何に対して、そんなに必死に合わせようとしているのだろう? と。

確かに、急がなくちゃいけないという感覚はある。それもだいぶ危機迫った感じで。でも、それは何かを開発することや規則を作らなければならないというのではなくて、もっと根源的なものが脅かされているという切迫感。
世界はどうなってしまうのだろうと、不安に感じている人が一層増えてきているからなのかもしれない。大規模な自然災害だけではなく、人の心が壊れてしまっているのが、多くの人の目に見えるように表に出てきているのだし。でも、不安に思うってことは、気づいたってことでもある。だから、このままじゃいけないと立ち上がろうとしている人もいよいよ増えてきているのかもしれない。

奇妙にも、聖書に同じような文章を見つけた。「世界を手に入れても、魂をきずつければ、何の得だろう」(「マタイ福音書」十六章二十六節)。ああ、魂がなんだというのだ! 魂など、とうの昔に道すがらどこで忘れてきてしまった。未来の世界は完璧に楽で、完璧に本質を喪失した世界になるだろう。そう思いませんか?

(参考:岩波書店「エンデのメモ箱 <考えさせられる答え>」ミヒャエル・エンデ著、田村都志夫訳)

便利さを優先してきた結果、ちょっとでも不便なことがあるとすぐに苛立つ。ちょっと前までそれがなくても苛立つことなんてなかったのに・・・。レンジでチンで、何がわかるだろう? それは、身体を心を健康にするだろうか。料理をすることでも、気づくこと、学べることはたくさんあるのに・・・。何でも手っ取り早く簡単に、というのは、とても乱暴で暴力的にも感じる。「時短、時短!」と嬉しそうに言うけれど、豊かさまでも削り取ってしまってはいないだろうか、と心配になる。
最近「丁寧な暮らし」というものが見直されてきているのは、今までの暮らし方はどこかおかしいのではないかと気づき、本当に心を豊かにしてくれることとは何なのだろう、と考えはじめた人が増えているからなのかもしれない。
もちろん、新しい開発をしない方がいいってことじゃない。心を伴った、世界との関係性を保ったものができれば、とても嬉しい。

百年以上にわたって、ヨオロッパはただもう研究と、工場の建設ばかりやってきた。かれらは、人間ひとり殺すのに、何グラムの火薬がいるかということは、くわしく知っている。しかし、どうやって神に祈るかということは、知らないんだ。どうやったら、一時間でも満足していられるかということさえ、知りやしない。

(参考:岩波文庫「デミアン」ヘルマン・ヘッセ作、実吉捷朗訳)

われわれは自然に帰る道を再び見つけ出さなければならない。この道がどこにあるのかを、ひとつの単純な考え方が教えてくれる。確かにわれわれは自然から切り離されてしまった。しかしわれわれはそこから何かを内なる自然として自分の本質の中に持ち込んでいるに違いない。この内なる自然を見出さなければならない。そうできれば、関係が再び見出されるであろう。

(参考:ちくま学芸文庫「自由の哲学」ルドルフ・シュタイナー著、高橋巌訳)

土に触れよう。太陽に手をかざそう。新鮮な水を飲もう。土は、汚くないよ。太陽は、教えてくれるよ。水は、繋いでくれるよ。
ほら、聞こえるようになったでしょう? これが、この星の、この宇宙のうた。
急がず急ごう。風は吹いている。黄金の風が、今。
あなたの内で力強く鼓動するもの、底なしに温かく輝くもの。
ほら、見えるようになったでしょう? これが、世界。本当の自分の姿。
急がず急ごう。風は吹いている。黄金の風が、今。

私たちは、世界を変えた。だから、これからだって変えられる。一人一人の選択で。

そんなに情報集めてどうするの
そんなに急いで何をするの
頭はからっぽのまま
(中略)

襟足の匂いが風に乗って漂ってくる
どてらのような民族衣装
陽なたくさい枯れ草の匂い

何が起ころうと生き残れるのはあなたたち
まっとうとも思わずに
まっとうに生きているひとびとよ

(参考:小学館「永遠の詩02 茨木のり子 <時代おくれ>」高橋順子選・鑑賞解説)