「瞳の中の物語―ソレイユの泉―:4.宙」より「少年と僕」

pupil少年は、両目を瞑っていた。そして、気軽に声をかけることもはばかられるような、この場を支配する圧倒的な静寂をたたえていた。少年は、ゆっくりと深呼吸をした。
「さあ、こっちだ。」 少年は、まだ声変わりをする前の愛らしい声で小さくそう言うと、僕に背を向けて歩き始めた。
僕は、どう声をかけていいのかわからず、少年の後について歩き始めた。
少年は、両目を瞑っていて見えないはずなのに、目的地への道をしっかりわかっているような確かな足取りで歩みを進めていた。さっきまでの今にも壊れてしまいそうにぎこちなく歩いていた錆びた金属のような面影は全くなかった。どうして、彼はあんな格好をしていたんだろう・・・・・
しばらく歩いていると、僕は、いろいろな考えとあまりの静けさに耐えられなくなって、勇気を出して少年に話しかけた。
「僕らは、前にどこかで会ったことがあるような気がするんだけど、違うかい?」
「・・・・・」
少年は、答えなかった。耳も聞こえないのだろうか。僕は、もう一度話しかけてみた。
「僕は、フィル。きみは、何て名前だい? 僕らは、どこへ向かっているの?」
少年は、真っ直ぐ前を向いて歩きながら一呼吸すると、静かに答えた。
「きみのことは知っているよ。僕のことも知っているはずだ。そして、これから向かう所についてもね。だから、少し静かにしてくれないか。きみは、しゃべりすぎる。それによって、大事なことを聞き逃している。」
僕は、少年にそう言われて何だか恥ずかしくなった。そして、それを隠すように、うつむいて少年の一歩後をついていった。少年と並んで歩くことはできなかった。僕とそんなに大きく年は離れていないのに、その存在はとても大きく感じた。

 

― writing: 「瞳の中の物語―ソレイユの泉―」より抜粋